世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会声明
「東日本大震災から10年を迎えて」
2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年の月日が経ちました。この震災でかけがえのない多くのいのちが失われました。改めて、この震災によって犠牲となられた方々のご冥福を祈り、そのご遺族に衷心より哀悼の誠を捧げ、また、この震災によって負傷、長期間の厳しい避難生活を余儀なくされている方々に心からお見舞いを申し上げます。さらに、これまで災害対応、被災者支援、また復興のために尽力をされてきたすべての方々に、深甚の敬意と謝意を表明します。
地震、津波、原子力発電所事故という複合災害は、多くの人々の献身的な尽力によってインフラ等の復旧は進んだものの、いまだ被災地域に多くの傷跡を残し、様々な新たな課題を生み出しています。避難者の心身の健康悪化や家族の離散や崩壊の危機、地域コミュニティにおけるつながりの喪失による孤立、行政や民間団体の支援の減少や賠償の打ち切り等による生活困窮は今も深刻な問題となっています。また東京電力福島第一原発の事故は、いまだ解決の見通しが立たない状況です。
私たち宗教者は、東日本大震災から改めて大自然の無常とその中での人間の力の限界を実感し、信仰とは何かを考えさせられる経験をしてきました。人々の生活といのちに密接に関わる宗教、また宗教者として、このたびの災害では、被災された方々に寄り添い、共に歩むことを通して、人々に慰めや希望、励まし、また心の癒しをもたらすことは私たちに神仏より与えられた使命でした。
様々な宗教者が連携、協働して平和構築をめざすWCRP日本委員会は、微力ながら支援活動に取り組んでまいりました。そこでは、(1)失われたいのちへの追悼と鎮魂、(2)今を生きるいのちへの連帯、(3)これからのいのちへの責任という3つの方針を掲げ、被災地における慰霊、精神的ケア、コミュニティづくり、特別な配慮を必要とされる方々への支援、臨床宗教師育成、さらには脱原発と再生可能エネルギー促進の提言や、避難所における発達障がい児者受入についての啓発などを行ってきました。
これらの経験を通して、私たちが改めて学んだことは、災害において宗教者は多くの責任と役割があるということです。災害を予防するという防災、災害発生時における緊急対応、人々の生活を取り戻す復旧・復興といった各フェーズにおける活動があり、そしてこれらの取り組みは、地域社会における行政や民間団体、さらには国、国際組織等あらゆる部門と開かれた関係構築をしながら協働するということです。その中で、宗教者本来の災害対応である、悲しみ、痛み、苦しみを背負った被災者のために祈り、人々の心の安らぎをもたらす実践を行うことです。
東日本大震災で多くの人々が悲しみ、苦しみました。それは今でも続いています。私たちは、神仏の限りない慈しみとお導きに思いをいたし、被災者の苦境に心を痛め、悲しみ、苦しみを胸に刻みます。そして、宗教宗派の垣根を超え、諸宗教者が協力し合い、震災がけっして風化されないよう、多くの人々に被災地域の現状を伝え、将来世代に語り継ぎます。
震災から10年を迎えるにあたり、WCRP日本委員会は、これからも東日本大震災の痛みの中で生きている人々と共に歩み、その苦痛が少しでも和らぐための慈しみの実践を誓い、そして世界各地における災害対応、さらには将来の防災に向けて、(1)あらゆる部門とのネットワーク化の推進、(2)啓発・提言活動、(3)平和教育・倫理教育、(4)人道支援というWCRPの活動指針に基づく行動を、WCRP国際ネットワークと共にさらに強化していく決意を新たにします。
2021年3月11日
公益財団法人世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会
理事長 植松 誠