公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

北風と太陽

神宮司庁総務部長・WCRP日本委員会理事 齊藤郁雄

「北風と太陽」というお話があります。

北風と太陽は、道を歩いている人間の服を脱がした方が勝ちと決め競争をしました。北風は人間めがけ何度も何度も強く吹き付けましたが、人間は着物を吹き飛ばされないようにと堅く押さえ、脱ぐどころか着込む位で全く埒があきません。今度は太陽がじわじわと照らすと押さえる手が緩み、もっと強く照らすと遂には人間が服を脱いでしまいました。

「自分の思いばかりでは人を動かすことは出来ないし、方向を誤りかねない。相手の身に寄り添って行動をすることにより納得して頂ける」という教訓です。ここで、少し離れて、もう一度このお話をみてみましょう。

冬に北風に吹かれれば寒い、これは現実です。人は自分の意志で服を着ます。そこに風が止み陽の光が幾ばくかでも降り注いだら如何でしょう。有り難さが身に滲みて感じられるのではないでしょうか。普段は当たり前のことのように思い過ごしたり、真夏には暑さを疎ましくさえ感じられた太陽(自然)でも、北風(自然、悪者と言う意味ではありません)による困難を乗り越えたところに、改めて大自然の恩恵に気付き、身にも心にもとても温かく有り難く感じられるでしょう。

この二つの見方はいずれかが正しい、或いは間違っているという事ではありません。前者は、「有事の際何を以て行動の判断基準にするか、有事の真っ只中にあって如何にすれば社会を良い方向に導くことが出来るか」。今日、自然災害、或いはコロナ禍にあって、現場でご尽力頂いている方々が、このような思いで取り組んで居られるように拝察し、頭が下がります。

後者は、少し時間が経過し落ち着いた頃、漸く感じ取れる事だと思います。「平和」だからこそ、なのです。

宗教に携わるひとりとして、有事には被災された方や対処に当たる方々に思いを致し、平穏平和に導くようひたすらお祈り申し上げる。苦難を乗り越えた後には、現実を直視しつつも、そこから学び得たことを話し合い、それぞれが出来ることに精を尽くし、平和が持続出来るよう皆で力を合わせてゆくことが、大切な一つの勤めであろうと気付かされました。

繰り返し起こる自然災害や世界的感染症の中で、こんなことを感じました。

(WCRP会報2022年2月号より)

BACK NUMBER