公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

分断を超えて

真宗大谷派浄玄寺住職・認定臨床宗教師 吉尾天声

甚大な被害をもたらした熊本地震が発生して4月14日で6年になります。宗派や団体の方々におかれましては、前震直後から被災者への支援活動を行って下さり、改めてこころよりお礼を申し上げます。

私は宗教・宗派を超えた方々と共に特に被害が甚大であった上益城郡益城町でこころのケアを中心とした支援活動を行いました。

被災地での活動を振り返ってみますと、多くの方々が助け合い支え合いました。それは本当にこころ温まる光景でした。一方で、復興が進むにつれ徐々に格差が広がっていきました。被災者が震災前から抱えていた課題が震災により表出し、復興から取り残される不安により人々は敏感になり、時には軋轢を生み閉鎖的な思考へと変化しました。その危機意識は、ともするとデマ、差別、偏見を生み、人を攻撃的な思考にして寛容さを失わせます。そこには分断が発生していくのです。

「分断」という言葉は近年よく耳にする様になりました。新型コロナ禍の日本を鑑みますと、その影響により日本全土が被害を受けており分断が生じています。危機的な状況になればなるほど立場によって意見に齟齬(そご)が生じ分断が広がっていくのです。

世界に目を転じれば、ウクライナではロシアの軍事侵攻が続いています。NATO加盟国・米国とロシアの対立は紛争にまで発展しました。民主主義国家・専制君主国家、米国内などに代表される分断の深まりは、何らかの危機意識、自己を喪失した不安の表れなのかも知れません。その解決策はあるのでしょうか。

アナバプテスト・メノナイト派の宗教的・倫理的枠組みに基づく紛争変革プログラムの研究者であり活動家であるジョン・ポール・レデラック氏は、紛争・分断の変革(解決)について「変革とは、満ち干を繰り返す社会的衝突を、建設的変化のプロセスを生み出す『いのちの機会』として描き出し、そのビジョンに具体的に応答することです。そしてそれは、相互の直接的な関わりと社会構造において暴力を減らし、正義を増し、人間関係の現実の実際的問題に取り組むこと」であると述べています。紛争や分断は、今まであった矛盾が表出したものであり、変化の機会を与えてくれるものなのでしょう。その現実の前に立ち止まり、自分と向き合い、傷ついている人や対する相手と向き合い、そこで気づかされ感じたことに身を投じ、自分の在り方を問い続けていく。その実践が変革を起こすのではないでしょうか。

分断を超えた平和は静止した状態ではなく、平和を目指し続ける在り方の上にこそ成り立つのでしょう。

(WCRP会報2022年3月号より)

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