公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

Heartful Message

こころの扉

AI 社会における宗教と意識の拡張

服部天神宮禰宜・WCRP日本委員会青年部会副幹事長 加藤大志

現代社会は生成AIの台頭をきっかけに目まぐるしいスピードで変化を続けております。変化の中で、大量に情報が溢れる今、現代人が1日に触れる情報量は江戸時代の約一年分と言われおります。凄まじい情報量から短期的な判断を迫られ、その結果、今を生き抜くことに必要不可欠な短期思考へと陥れることへと繋がっていき、我々は時間軸における意識の比重のバランスを失い続けているように思えます。短期的な思考のもと、今を生きることに囚われた結果として、日々生きることがこころを失うことにつながっていく、現代の社会ではそんな人が多くなってきているように感じております。

しかし、我々は人知を超えた世界を畏れ敬う長い時間軸の中に身を置き、日々の営みの中で無意識にその感性を持ち続けていました。私が奉仕する服部天神宮には樹齢三百年以上の樟というご神木がそびえ立っています。三月になると、徐々に葉が赤く染まり始めて、今まで樟を守り続けた葉っぱが境内にゆらゆらと落ちていきます。私たちは朝のお務めとして、落ち葉をかき集めながら、境内を元の状態へ整えていきます。落ち葉を掃除する営みは、今だけでなく、過去から変わらず続いている日本文化であります。掃除という営みは、日々継続することで、長い時間存在するご神木に意識を向けるきっかけとなり、ご神木と自らの存在との間につながりを感じるようになっていきます。何百年と続く悠久の歴史において、季節の移り変わりとともに、葉が次世代の養分として落ちていく営みは、人間が生きる一生よりはるか長い時間存在しております。この掃除を通じて、自らの存在が広大な時間軸の中にあることを意識し、人知を超えたはたらきが存在する世界に対する畏敬の気持ちを取り戻すのです。

資本主義社会では効率化が求められ、目先の利益に囚われてしまい、人類が生きる上で本質的に重要である目に見えない存在とのつながりを考慮することに欠け、目に見える世界を至上としてしまっているように思えます。気候変動など地球規模の社会課題に直面する中で、人類が短期的思考から地球と共存を希望する長期思考へと意識を向けていくには、長い時間軸の中で数多の祖先の智慧が集積するバトンを受け継いできたあらゆる宗教が連帯し、力を発揮することが今こそ求められていると強く感じております。

(WCRP会報2024年6月号より)

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