公益財団法人 世界宗教者平和会議日本委員会

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2025.3.18
学習・セミナー その他

「世界を見つめ、地域で共に生きる」WCRP日本委員会女性部会学習会 開催報告

2024年3月8日、WCRP日本委員会女性部会は、清泉女子大学を会場に「いのちに関する学習会」を開催し、32名が参加しました。今回のテーマは「世界を見つめ、地域で共に生きる―ローカルから始まるグローバルアクション―」。日本社会における多文化理解と外国人との共生について、江戸川区の事例をもとに考える時間となりました。

【基調講演】ジョージ・ギッシュ先生 「人と人を結ぶ多文化共生」

基調講演では、青山学院大学名誉教授であり、江戸川総合人生大学国際コミュニティ学科名誉学科長でもあるジョージ・ギッシュ先生をお迎えしました。ギッシュ先生は、日本での長年の研究・教育・地域活動を通じ、多文化共生の理念とその実践に深く関わってこられた方です。

講演の冒頭でギッシュ先生は、1960年代から続く江戸川区の「まちづくり」の変遷について語りました。当初は、インフラ整備を中心としたハード面の開発が進められてきましたが、地域の外国人住民の増加に伴い、行政と地域住民が協力して「人と人のつながり」を重視したコミュニティづくりへと転換してきた過程を紹介しました。

ギッシュ先生は、多文化共生を進めるうえで「国際」ではなく「人際(じんさい)」という視点が重要であると語りました。国家同士の関係や文化の違いに注目するのではなく、一人の人間として目の前の相手とどう向き合うか、という人間関係の在り方を問い直す必要があると述べました。その上で、異なる文化的背景を持つ人々が「比較する」のではなく、「共通の課題を共有し、共に解決する関係性」を築くことが、現代の日本社会において欠かせないと強調しました。

講演の中盤では、先生ご自身が設立に関わった江戸川総合人生大学国際コミュニティ学科の事例が紹介されました。そこでは、学生が地域の外国人住民とのフィールドワークを通じて、現場での気づきや信頼関係の構築を重ねる過程について触れられました。学生たちは、日本語学習の現場やインド人コミュニティ、インターナショナルスクールなどを訪れ、外国人住民と直接関わりながら、「教える・教わる」という関係を超えて共に学び、地域に根ざした活動を行ってきたとのことです。

また、「世界の中心は自分の中にある」という言葉を用いて、グローバルな課題を個人の視点から考えることの重要性を参加者に投げかけました。社会課題を「誰か」のものとして捉えるのではなく、自分自身の生き方の中に落とし込み、日々の出会いや地域活動の中で行動に移すことが、多文化共生を前進させる力になると語られました。

最後には、「For you(〜のために)」から「With you(〜と共に)」という発想への転換が、多文化共生の根本にあるべき姿勢であると結びました。単なる支援ではなく、相互に学び合い、支え合う共生の精神が、地域社会や国際社会の平和にもつながることを力強く訴えました。 

【パネルディスカッション】地域での多文化共生の実践

パネルディスカッションでは、地域で多文化共生に取り組む3名の実践者が登壇し、それぞれの立場から具体的な取り組み事例や課題について語りました。

門田信雄氏(江戸川総合人生大学同窓会ボランティア連絡会世話人会代表)は、日本語ボランティア活動を通じた外国人支援の取り組みについて報告しました。外国人住民が日本語を学ぶことで地域社会に適応しやすくなり、孤立を防ぐ重要な手段であることを強調しました。また、個人による支援だけでなく、行政や地域団体との連携が不可欠であり、外国人の課題を行政に届ける「橋渡し役」としてボランティアが機能することの必要性を指摘しました。さらに、支援する側・される側の間に適切な距離感を持ち、対等な関係性を築くことが、持続可能な多文化共生における鍵であることにも触れました。

松浦松子氏(江戸川総合人生大学同窓会会長)は、自らの人生大学での学びを起点に、異文化理解を深めるボランティア活動を行っていることを紹介しました。多文化共生は「まちづくり」ではなく「コミュニティづくり」であり、信頼関係がその基盤であると語りました。特に、フィールドワークを通じて直接地域の外国人住民と関わる中で、共に課題を解決し、相互理解を深めることの大切さを力説しました。また、ボランティア活動を持続可能にするためには、地域住民一人ひとりが「自分ごと」として多文化共生に向き合う意識が重要であると述べました。

ジャグモハン・チャンドラニ氏(江戸川区インド人コミュニティ会長)は、江戸川区におけるインド人コミュニティの形成とその中で直面した具体的な課題について語りました。特に、外国人住民が住居を借りにくい、母国の文化や言語を子どもに伝える場が少ない、宗教や食文化の違いによる生活上の課題など、インド人コミュニティが抱える問題について具体例を挙げました。その上で、こうした課題を地域社会と協力して解決してきた経緯を共有し、外国人住民と地域住民の間で積極的に交流を図ることが、誤解や摩擦の軽減に繋がると述べました。また、外国人住民が行政に積極的に声を届ける仕組みづくりの必要性にも言及しました。

【参加者との対話】

パネルディスカッションの終盤での質疑応答では、地域の自治会長を務めている参加者から「外国人住民の住まいの課題」、若い世代からは「外国人が社会に声を届ける仕組み」など、多文化共生の課題に関する具体的な質問が寄せられました。登壇者からは、多文化共生センターの活用、地域におけるリーダー育成、行政との協働の大切さが提案され、会場内で活発な意見交換が行われました。

【参加者からの声】

学習会終了後に実施したアンケートでは、多くの参加者から「多文化共生を自分ごととして考えるきっかけになった」「地域で実践している事例を聞けて大変参考になった」といった前向きな声が寄せられました。特に、基調講演での「人際」という考え方や、「With you」の姿勢に対して共感する意見が多く見受けられ、「自分の地域でも人と人との信頼関係を築くためにできることを考えたい」との声も上がりました。

また、パネルディスカッションについては、「現場で活動されている方々のリアルな声に学びがあった」「ボランティアや地域との関わり方に具体的なヒントを得た」という感想が多く、今後の地域活動に活かしていきたいという意欲的な回答も多く寄せられました。加えて、「外国人住民の声をどう行政に届けるか」「地域におけるリーダー像とは」など、参加者自身も課題意識を持っていることがアンケートから浮き彫りになりました。

参加者の声からは、今後もこのような学びの場を継続し、多文化共生に向けた具体的な行動や実践を促していく必要性が感じられました。

【学習会を通じて】

この度の学習会を通じて、WCRP 日本委員会女性部会は多文化共生の促進の必要性を認識し、宗教や文化の違いを超えて人々が共に生きる社会を実現するためには、女性の視点からのアプローチも不可欠であることを確認しました。女性は家庭や地域コミュニティの中心的な存在であり、多文化共生の推進においても、教育や福祉、地域活動を通じて重要な役割を果たしています。特に、日本社会において外国ルーツの女性や子どもたちが抱える課題に寄り添い、彼女たちの声を社会に届けることが求められていると感じました。

今回の学習会を通じて、多文化共生は行政や一部の団体の取り組みだけではなく、地域住民一人ひとりが主体的に関わることが不可欠であることが再確認されました。言語の壁、生活習慣の違い、制度の課題など、多様な問題がある中で、相互理解と信頼関係の構築が鍵となり、外国ルーツの人々が自らの声を発信し、それを受け止める場を増やしていくことが、持続可能な共生社会の実現につながることを学びました。WCRP 日本委員会女性部会としては、行政、地域団体、個人が連携し、多文化共生のための環境を整えながら、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指し、共に歩んでいくことが重要であるとの認識に基づき、今後、多文化共生の推進に向けて、各地域でのフィールドワークや対話の場を通じた具体的行動を検討していきたいと思います。