2020年10月31日に開催された公開学習会「プラスチックの現状と課題」で出た参加者からの質問に講師の齋藤忠夫先生(東北大学名誉教授)が全て回答して下さいました!
Q1.中国に行かなくなった廃プラはどうなっていますか?
A. 2018年1月よりこれまで中国に毎年100トン近くを「輸出」していたプラごみは、その後、マレーシア、タイ、インドネシアなどに輸出され処理されて来ました。現在は、以上の国に加えてフィリッピンからはプラごみの受け取り拒否をされていますので、海外に輸出ができないために、行き場を失ったプラごみが日本国内で急増しています。ましてや、2021年1月からはプラごみが認定されたバーゼル条約が運用を開始しますので、さらに他の国でも受け入れてもらえず、日本は深刻な事態が生まれそうです。
Q2.輸出できないごみはどうなりますか?
A. 良く考えてみましたら、自国で出たごみを他国に処理させるのはおかしい訳です。原点に返って、日本国内で出たプラごみは、自国内で処理する方向で動こうとしています。時間があれば、材料に戻して再利用するマテリアルリサイクルが理想的ですが、ごみがどんどん増えますので、現在は燃やして回収した廃熱を利用するサーマルサイクルしか取る手段はないかと思います。しかし、この方法ですと、CO2(二酸化炭素)が増加しますので、菅さんの2050年までにCO2排出ゼロ公約と齟齬を生じることになるかと思います。環境省も慌てて産業廃棄物の一時的な保管量の上限を2倍にしましたが、間に合いそうもありません。
Q3.地域や役所ごとに燃えるゴミやリサイクル可能なものの対応などゴミの分別の仕方が違うのはなぜでしょうか?
A. 容器包装リサイクル法(容リ法)の所で説明させて頂きましたが、消費者側にはプラスチックの分別排出(分けて出す)の役割と義務があります。その分け方は市町村側にあります分別収集能力と関連しています。私が住む仙台市では、週一回のプラごみとペットおよび缶類、ガラス瓶類の収集日があります。プラごみは指定袋に各自が入れて出し、それ以外は用意されたかごに入れて回収されます。市町村によって収集方法が異なるのは、分別できる人の人数や燃焼させる炉の種類(キャパと最高温度)などに寄り、処理速度などの処理能力が異なっているからだと思います。動画でお示ししましたが、PETの選抜などは手作業の部分がありますので、相当の作業員の人員が必要となります。経済的な違いも影響する部分ではあります。
Q4.昔は瓶でしたが、物流の軽量化の恩恵を味わった現代が今選択できるベターなものの代替品としてはどのようなものがあるでしょうか?
A. 大変に良い質問だと思います。現在の段階では、プラスチック以外の優れた素材はないかと思います。例えば、PETボトルでは、すべてPETで作ると固くてキャップから液が漏れてしまいますし、熱で縮んで薄い膜となる部分にはPETは使えません。そこで、同じプラでも本体はPET、キャップは可塑剤を混ぜて柔らかくしたPEでラベルは展延性の高いPPなどと使い分けます。質問の様にベストな代替品は見つかりませんが、ベターな代替品としてはより軽いアルミ缶だと思います。しかし、スチール缶よりも再加工に熱を多く使用することで、高額になりますので、リサイクル品としてはあくまでもベターと考えます。
Q5.欧米のように廃プラを埋め立てることは、日本の人口と土地面積からみると何となく難しいのではと思っていたのですが、それが国際スタンダードになったときに、日本は物理的に対応できるものなのでしょうか?その方法が環境に良いのでしょうか?
A. 日本で埋め立てと聞きますと、一昔前の東京湾のごみを埋め立てた「夢の島」を思い出します。アメリカなら広大な土地がありますがヨーロッパでは埋め立ては一時的な措置だと思います。講演でもお話しましたように、ごみ処理をプラント化して大きな再生利用のビジネスを立ち上げ、雇用を創出するのが狙いですので、方向性としてはマテリアルリサイクルに収束していくと予想しています。アメリカなども追随すると思います。
Q6.プラごみは海へどのように大量に流出していくのでしょうか?海で直接廃棄する以外に、どのような方法でそうなっているのでしょうか?
A. 私もこの点は大きな疑問でした。スライドの中でもお示ししましたが、太平洋ベルトの中のかなりの部分を、10年前の東北大震災で日本から流出した大量のプラがあるそうです。これは不可抗力だから仕方が有りませんが、それだけ津波で流出するプラスチックが河口や海浜には存在していたという証拠だと思います。日本では基本的に川や海に上流から大量のプラスチックを故意に廃棄する人はいません。あくまでも、水面に接した部分のごみの山より、雨や水害で不本意ながら流出して海に到達してしまう、というのが現実のようです。太平洋ゴミベルトでの大半のプラごみは漁網ということですが、これも故意に洋上で廃棄したのか、不本意ながら作業中に流出したのかは分かりません。
Q7.プラスチックにも様々種類があるということでしたが、自分だけではなかなか学習が及ばないため、具体的にどんな成分はより避けた方が良いのかなど、見分け方を教えて下さい。
A. プラスチックの部分は、高校の化学では高分子化学として学びます。一般の講演では、プラスチックの化学構造や特徴などを話されることはまずありません。プラスチックをひと固まりの物質としての理解を求めます。以前には、大分セルロイドという合成樹脂が世の中に広く出回り、玩具やサングラスまで沢山の製品がありました。しかし、極めて可燃性であり事故も多発しましたので、自然となくなりました。また、一昔前の食器にはメラミンが溶け出すメラミン樹脂が多用されていました。これも、健康被害が知られて、社会からは淘汰されました。現在は、安全性が確認されたプラスチックが、とくに食品には使用されています。しかし、マイクロプラスチック(MP)の問題は最近分かって来た成分ですので、このMPに着目すれば、どのプラスチックも安全とは言えません。もう人類はプラスチック製の飲料容器からはなかなか後戻りはできない様ですが、逆行した紙製およびガラス製に回帰を求める動きは最近大きくなっています。やはり、一番容器に多用されているPETが使われている容器の使用回避が、健康効果としては一番大きいかと思います。
Q8.歯磨き粉にもMPが含まれるものがあると仰っていましたが、それは容器から溶け出るものでしょうか?それとも歯磨き粉の成分自体にということでしょうか?だとすれば、どんな成分がそれにあたるのでしょうか?
A. この部分はまだ詳しく調査していませんが、歯磨き粉の研磨剤の一部にMPを敢えて使用している?製品があるとの記事がありました。基本的には毒性はないと思いますので、飲む製品ではなく最後は口を漱いで排出する歯磨き粉ですので、問題は少ないかと思います。基本的には、MPがゼロの製品はないと考えた方が宜しいかもしれません。
Q9.毎日ミネラルウォーターを飲んでいるが、どのようにして汚染されるのか、ぜひ教えていただきたいです。
A. 講演の中でも、2019年の食品(ビール、塩、魚介類、砂糖、ハチミツ)中に含まれるMP量と年間の摂取量の推定研究を紹介しました。この研究では、水道水にも空気中にもMPは存在するのですが、ペットボトル入りの水はもっと多いことを報告しています。おそらくミネラルウオーターは自然の水だから安心安全ということで、細菌や重金属が含まれていなければ検査はOKなのだと思います。しかし、雨水が通過してろ過される土壌自体がMPで汚染されており、ミネラルウオーターに事前に含まれており、それは検査対象になっていないのだと思います。また、特に、災害対策用の2年もの、5年物などの長期保存タイプのPETボトル入りの水は、容器のPETが部分分解したMPにより二次汚染されて、年々そのMP量が増えて来ているのだと思います。
日本の場合は、MP含量はゼロではない様ですが、きちんと浄水装置でろ過されている水道水の方が安全の様です。
Q10.海洋での問題点と、私たちがなすべきことをお示しになられておられますが、風によって運ばれるMPに関して、何か研究は進んでおりますでしょうか。
A. 確かに、私の講演の中では、例えば中国からの黄砂に含まれるMPの話なども補完する必要があると思います。しかし、私が調べた範囲では、風により運ばれるMPに関しての研究を見つけることは出来ませんでした。恐らく、あり得るかと思います。また、黄砂の問題は、微細な黄砂に結合した有害物質や微生物汚染が問題視されていました。MPでも同様な危険性は十分にあるかと思います。さらに、調査してみたいと思います。ご指摘、有難う御座いました。
Q11. 生分解性のあるプラスチックなども開発されていますが、微生物がそれらを分解した場合、微生物生態系への影響はあるのでしょうか?また生分解性のペットボトルは今後普及するのでしょうか?
A. 微生物は無限の可能性がありますので、今後、高い効率でPETなどのプラスチックを分解する微生物が見つかることは間違いないかと思います。また、すでに多くの候補微生物が見つかっているのですが、多くの菌は培養が出来ないのです。最適の培養基は菌によって異なりますので、それぞれの最適化が必要です。私は、時間のかかる研究よりも、PET分解菌の場合は、2種類の酵素が必要なので、この酵素を大量に菌体内で作り出すような遺伝子操作が可能だと思います。
問題は、ご指摘に様に、この様な微生物は自然界に存在しない遺伝子改変体ですので、自然界に放すわけには行きません。微生物の生態系を乱すことにもつながりますし、将来我々の脅威となる菌に変異する可能性も否定できません。これらの遺伝子改変株は、研究室内でのみ研究に使用し、外部にはオートクレーブ滅菌して出すことになります。菌を固定化して使う方法もありますが、固体のPETに対しては使えません。
生分解性のPETボトルはあまり普及しないかもしれません。それは、長期間容器が持たないからです。将来的には、PETはBtoBの無限再利用可能な水平リサイクルが常識となり、その他のPET以外のプラスチック製品が生分解性となり益々発展する分野になると予想しています。
齋藤先生ありがとうございました!今後も環境問題に関心を持ち続け「青年部隗(かい)より始めよ!」の精神で出来る事から実践、そして身近な人へ伝えていきます。
公開学習会に参加出来なかった方はこちら(公開学習会配布資料pdf)より資料をダウンロードできますので是非ご覧ください!